「テレビ離れ」と「動画の需要の拡大」、現状の日本ではそれが同時に起きている——。 芸能プロ関係者は話す。
「テレビの視聴率下落は止まらない感じになっています。3月13日の香取慎吾さん(48)の主演ドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)の世帯視聴率は3.4%。バラエティでも3月6日の『櫻井・有吉 THE夜会』(TBS系)が5.3%でした。前者は元SMAPで国民的タレントの主演ドラマ、後者も有吉弘行さん(50)、嵐の櫻井翔さん(43)というスターの人気番組にもかかわらず、そうした低い数字だった。 今は世帯視聴率だけが指標ではないですが、世帯視聴率10%が及第点、などと言われたかつてと比較すると、数字は著しく低下していますよね……」 近年、急速に進んでいるという“テレビ離れ”。前出の芸能プロ関係者は続ける。 「決定的だったのはコロナ禍だと言われています。そこでテレビ界は、視聴者に“テレビは面白い”ということを示すことができず、Netflixなどで海外の良質のドラマを見たり、YouTubeやTikTokで好きなクリエイターの動画を気軽に見る、という“習慣”がついてしまいましたよね。 そして、コロナ禍が収まり、一気にテレビ番組の制作費が減ったといいます。現在、番組制作費は、コロナ前の3割減、4割減という話。テレビ離れによる“視聴者減”でテレビ局に入る広告費自体が減っているからですが、実際に番組を制作する制作会社の人やフリーディレクターたちには、あまりにも厳しい時代ですよね……」
■「動画の需要拡大」で「動画編集スクールビジネス」も盛り上がり
その一方で、動画の需要は拡大を続けている。 「今、街中に出れば至るところにディスプレイがある。ビルの上の大型ディスプレイだけでなく、電車の中、エレベーターの中……そしてやはり、スマートフォンの進化が大きい。電車の中では皆、イヤホンをしてスマホの画面を見つめていますよね。ドラマ、バラエティ、YouTube、TikTok……各々が好きな動画コンテンツを楽しんでいます。 5G時代になり映像コンテンツがストレスなく見られるようになった今、動画は現代人の生活には欠かせないものになりましたよね」(前同) そんな「テレビ離れ」と「動画の需要の拡大」の今、盛り上がるのは動画編集の世界だという。 「現在は、動画編集への需要が高まっています。たとえば、個人が結婚式で流す動画を作ってほしいと依頼するようなものから、企業が社員研修で使う映像を依頼するなど、動画編集の仕事はたくさんある。ですので、動画編集の技術があれば、しっかりと稼げる。会社員をやりながら副業でやったり、子育ての合間にやる方、技術が上がって稼げるようになって動画編集を本業にする人もいるそうですよ そうしたなかで、『動画編集スクール』ビジネスも盛り上がりをみせています」(同)
■動画編集ソフトの進化、サブスク化も大きい
今、沸騰しているという「動画編集スクール」ビジネス。だが、同ビジネスはなぜ盛り上がっているのか——。人気バラエティ番組『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)や早朝からのバラエティ番組『ラヴィット!』(TBS系)など多くの地上波番組を自身の制作会社で手掛け、2025年1月に動画編集スクール『動画編集TVラボ』を立ち上げたという中間拓郎氏はこう言う。 「やはり、“動画編集”というのが教わった方が早く身に着くものだからでしょうね。専門的な感じがしてやるまでは難しそうに見えますが、教われば割とすぐに理解ができて、実際に作業できるようになりますからね」(中間氏、以下同) 中間氏は、動画編集という仕事の背景について、こう解説する。 「まず、動画編集をしたいというニーズ増加の背景には、やはり、スマートフォンの進化、普及がありますよね。今はスマホは本当にきれいな動画が撮れますからね。それで今は、その撮ったものをどう上手くまとめるかという段階に来たんですよね。 それが編集なわけですが、“編集”はこれまではいわゆる特殊技能だったと思うんですよ。僕ら、テレビディレクターがやっているような専門家がやる仕事だった。それが今は、一般の人もやるようになり、身近なものになってきた。YouTubeとかTikTokとか実際に動画を出す先もあって、そこには一攫千金もある。個人にチャンスが舞い込んできたとも言えますよね」 同時に、大企業ではないさまざまな企業も動画で自社をPRする時代となり、そこでも動画制作の需要が生まれてきた。 「そうして動画編集ビジネスがどんどん広がっていっているんですよね。そして大きいのが、動画撮影の技術を上げるよりも、動画編集の技術を磨く方が動画を手っ取り早く面白く、魅力的なものにできるということだと思います。撮影技術はやっぱりなかなか上達はしないんです。あれはプロの領域ですね。一方、編集はある程度学べば上手くなるんです。 そして、編集ソフトの進化も大きいですね。現在、人気YouTuberたちも皆さん使っているそうですが、『Adobe Premiere Pro(アドビ プレミア プロ)』という編集ソフトがとても優秀なんです。僕たちテレビディレクターの9割くらいもそれを使っていますね。 昔はこの編集ソフトが高かったんですよね。すべてを揃えるには50〜60万円かかったのではないでしょうか。でも今はサブスクで使用することができて、月に4000〜5000円払えば使える。今は、それを操作するパソコンの性能も上がっていますから、僕はMacBookAirで使っていますが、Windowsでも使えるし、そういうハードのところでも、動画編集をやるハードルは下がっていますね」
■月の収入30万円、副業から本業にする人も
「動画の需要の拡大」と同時並行で進む「テレビ離れ」——それにより、長年テレビ界で活躍していた人材の“流出”も始まっている。その一部は、動画編集スクールビジネスにも来ているようだ。前出の中間氏が手掛ける『動画編集TVラボ』の講師は、全員が現役のテレビマンだという。 「テレビ界は今、本当に厳しいことになっていて、特に僕ら制作会社やフリーの人間は大変です。テレビ番組の制作費がどんどん下がっていて、本当はテレビ番組を作りたくても作れない時代になってきてしまっている。仕事を請け負った時点で、赤字が決定している仕事もありますからね。それをやり続けると、会社は倒産するし、個人は食っていけなくなります。 でも、僕らはやっぱりテレビが好きで、ずっとテレビ番組を制作としてきた者としてのプライドもある。だから、テレビマンの底力を見せたいんです。テレビマンのクオリティを伝えて、学んだ人にもどんどん良いものを作ってもらって、“やっぱりテレビの人はすごいんだな”という盛り上がりを作っていきたいんですねよ。 そして、多くの動画編集スクールでは“編集技術を磨いて、テレビクオリティを目指しましょう”と謳っているんです。だったら、最初からテレビマンが教えたらいいよね、と思ってこのスクールを立ち上げたんですよね」 現在、動画編集スクールは多数存在しており、YouTubeの人気番組『令和の虎』にも出演する青笹寛史氏が主宰するスクール『動画編集CAMP』などは日本各地に加えて、タイにも教室を持っているほどだ。中間氏のスクールは、テレビ現場のノウハウを詰め込んだ教材を作成し、バラエティ番組での“笑いの間”まで教えているというが、そこに来る“生徒”はどんな目的で来ているのだろうか。 「やはり、副業をしたい人が多いですよね。そして、動画編集の副業の良いところは、すき間時間にできることです。仕事の発注はさまざまなパターンがありますが、多いのは映像素材がすでにあって、“〇日までに編集をしてください”というもの。だから、自由度が高いんですよね。 サラリーマンの方でも土・日や勤務時間外にできるし、主婦の方でも家事の合間でできる。まだあまりキャリアがない人でも月に5〜10万程度は普通に稼げますし、どんどんスキルアップして月に10→20→30万円と稼ぎ、本業にしちゃう人もいますよ。本業になった人は、月に100万円超えてる成功者たちもいます。 動画編集は、スキルアップして動画のクオリティが上がり、作業時間も短縮できるようになればどんどん稼げるんですよね。一方、たとえば、スーパーマーケットのバイトで時給アップを狙っても、なかなか簡単じゃないですよね。世の中の動画のニーズは増えていて、仕事はどんどん増えていますので、やはりオススメの副業と言えるでしょうね。 あと、当然ですが動画編集はプライベートでもめちゃくちゃ使える技術です。身に着けていれば、自分の子どもの運動会などの行事でも一生ものの動画が作れるし、結婚式で流すVTRも自分で作っちゃえば高いお金が取られないですからね。ちなみに僕も自分の結婚式の動画を自分で作りました。徹夜して寝ずに結婚式に臨むことになりましたが(笑)」 テレビ業界がシュリンクする一方で、2021年は4000億円程度だった動画広告市場は、今年1兆円を超えるという調査報告もある。人とカネと仕事が増え続けている動画界の勢いは当分、止まらなそうだ——。
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